- 著 者:向井 湘吾
- 出版社:講談社タイガ
- 出版年:
『算額タイムトンネル』,2017 年.
『算額タイムトンネル 2』,2018 年.
天才数学少女の 真鍋 波瑠 が手にした神社に眠る“算額”ー江戸時代の数学「和算」を学ぶ者たちが神様に奉納した絵馬ーに,暗号めいた落書きが魔法のごとく浮かび上がる.波瑠の親友の千明はこれを和算の定理だと解読するが,その後も次々と新たな数式が消えては現れる.その奇妙な算額が幕末に繋がるタイムトンネルだと気付き,波瑠は幕末の和算家 橘 実信 との“算法対決”を始めるが,そのことにより歴史を改変してしまう.その代償は千明が持つ波瑠の記憶と,タイムトンネルの消失であった.一方,タイムトンネルを失った実信は,時を越えた好敵手である波瑠へと繋がる唯一の手がかりの数式の謎を解くために革命前夜のフランスへと留学する.2 人の数学者の知恵と願いが交錯するとき,信じられない奇跡が起きる!?
と言う,『お任せ! 数学屋さん』の作者による数学と歴史が絡んだ SF ミステリー小説である.“算額”がタイムトンネルというぶっ飛んだ設定であるが,数学の内容と歴史的な事実はフィクションではない.特に,江戸末期から明治にかけてのくだりなどは,歴史小説としても楽しめるだろう.また,「和算」をはじめ,江戸末期から明治初期にかけての日本における数学についても関心が湧いてくる.もし,その辺りのことをより詳しく知りたければ,蟹江 幸博,並木 雅俊 著『文明開化の数学と物理』,岩波科学ライブラリー,2008 年 を一読することをお勧めする.また,波瑠と実信という時代を超えての対話が,数学をなされて行われる様は,数学が国境だけでなく時代をも超えて通ずる“ことば”なのだということを感じさせてくれる(数学そのものがタイムマシンだということか⁉︎).“算額”は意外と身近な神社にも奉納されていることもある.“算額”を見てみたくなったら,訪ね歩いてもよいかもしれない.その“算額”が,もしかしたらタイムトンネルになっているかも?
ぜひ読んでみてもらいたいと,願いつつ,おしまい.