- 著 者:青柳 碧人
- 出版社:講談社文庫
- 出版年:
『浜村渚の計算ノート』,2011 年
『浜村渚の計算ノート 2 さつめ ふしぎの国の期末テスト』,2012 年.
『浜村渚の計算ノート 3 さつめ 水色コンパスと恋する幾何学』,2012 年.
『浜村渚の計算ノート 3 1/2 さつめ ふぇるま島の最終定理』,2012 年.
『浜村渚の計算ノート 4 さつめ 方程式は歌声に乗って』,2013 年.
『浜村渚の計算ノート 5 さつめ 鳴くよウグイス、平面上』,2014 年.
『浜村渚の計算ノート 6 さつめ パピルスよ、永遠に』,2015 年.
『浜村渚の計算ノート 7 さつめ 悪魔とポタージュスープ』,2017 年.
『浜村渚の計算ノート 8 さつめ 虚数じかけの夏みかん』,2017 年.
『浜村渚の計算ノート 8 1/2 さつめ つるかめ家の一族』,2018 年.
『浜村渚の計算ノート 9 さつめ 恋人たちの必勝法』,2019 年.
日本では,少年犯罪の元凶として学校教育から数学が排斥されていた.それに異を唱える数学者ドクター・ピタゴラス(本名:高木源一郎)が,「黒い三角定規」を結成し,数学を用いたテロを開始した.それに対抗すべく警視庁に設置された「黒い三角定規・特別対策本部」が探し出したのは,数学愛に溢れた女子中学生の浜村渚であった.浜村渚は,その深い数学愛で黒い三角定規の数学テロリストたちのテロを防いでいく.
と言う,何とも荒唐無稽な設定の数学をテーマにしたミステリ小説である.数学がテーマに扱われているが,数学の内容がストーリーの中にきれいに織り込まれている.決して数学の用語が出てくるだけなどという扱いではない.テロリストたちの行うテロにも,浜村渚がテロを防ぐのにも,ストーリーの展開にも,しっかりと数学が使われいる.もちろん,誇張されていたり,拡大解釈されていたりという点はあるが,ミステリ小説,フィクションである.そこは目を瞑っても構わないだろう.
その巧みなストーリー展開に感心することはもちろんだが,浜村渚の数学愛にも感銘を受けてしまう.例えば,「ぽっぽ・ザ・ディリクレ」という数学テロリストに対して,次のように言う
これはですね,ディリクレさんがとても優しい数学者だったことを表していると私は思うんです.だってディリクレさんは,鳩の巣が足りなくても鳩を追い出すことなんか初めから考えてないんですもん.あぶれちゃった鳩を,どこかの巣に先に入った鳩が必ず迎え入れてくれて,身を寄せ合って眠るのが当たり前だって,ディリクレさんはそう考えてるんです.数学者の優しい性格が伝わってくる原理なんて,素敵じゃないですか.だから私,『鳩の巣原理』,大好きなんです.
このことばを聞いたあと,ぽっぽ・ザ・ディリクレからはテロリストの顔が消えたのである.この話を授業で生徒にしたら,みんな感心していた.この他にも,浜村渚の数学愛に溢れたシーンは多数ある.数学が好きな人であれば感銘を受けるだろうし,そうでない人でも「数学っていいかも!」って気持ちにさせてくれるだろう.
ぜひ読んでみてもらいたいと,願いつつ,おしまい.